「パトロール システム」に記されたフィリップスのスピリット
―― Grey Wolf ――


 ボーイスカウト活動の柱の一つに班制(Patrol System)があります。その班制に命を吹き込む要素が、フィリップス(Roland Erasmus Philipps 1890.2.27-1916.7.7)が著した「パトロール・システム(班制教育)および班長への手紙」(The Patrol System and Letters to a Patrol Leader, 1917)の随所に記されています。その中で最も重要と思われるくだりの一つを次に記します。

 It is essential that Leaders and Seconds should not only read the theory of Scouting, but that they should also practice it. They may be formed into a special study Patrol, of which the Scoutmaster is himself Patrol Leader (under a scouting name such as Grey Wolf - the term "Scoutmaster" being barred). Such a Patrol may specialize in first class work, in camp organization, in woodcraft, and in other outdoor practices, in order that the Leaders may be afterwards better qualified to look after their own Patrols. It is important also that the Patrol Leader's position should be looked upon by himself and by his Scoutmaster as his school of training for ultimate Scoutmastership.

 班長と次長は、スカウティングの本を読むだけではなく、実地訓練も必須である。彼らを隊長自身が班長となる特修班(special study Patrol)に組み入れなさい(その班においては、隊長という呼称ではなく、灰色の狼(Grey Wolf)と呼ばれる)。この班では、1級の課業、キャンプ編制、ウッドクラフト、その他の野外活動、そして班長たちが自分の班を運営するためのより良い技能を持てるように特訓する。それは、班長のあり方を、彼自身によって、また隊長によって省みるものであり、そして将来の隊長の資質を訓練する学校としても重要なものである。(舟橋訳)
 (参考:「パトロール・システム(班制教育)および班長への手紙 その1.その2. 復刻版」ボーイスカウト日本連盟 H25.1.23発行 27頁)


Patrol System における隊長の役割と立ち位置


 班には班長と次長がいます。その班長と次長は、隊長が班長である特修班(以下便宜的にSSPと記します)の班員であるとしています。そのSSPの中で隊長が演じる班長の行動を通してそのノウハウを各班長次長が学び取り、それを各班で再現する …この形態とプロセスが構築されてこそ班制(Patrol System)の成立と言えます。これが欠けたならば、もうそれは班制と呼ぶべきではないでしょう。

 ここにも隊長自身が身をもって示す(Scoutmaster’s own personal example)ことが求められるわけです。このシステムを通して、隊長の考えや技能、そして人格そのものが、隊長から班長へ、班長から班員へと受け継がれていくことになるのです。

 SSPにおける 隊長= Grey Wolf のふるまいが班制の出発点であり、班制に命を吹き込む営みであるといえるのです。

 フィリップスの論述では、隊長は、SSPの班長であり、名誉会議(Court of Honor)の座長(chair)と規定しています。

 このSSPや名誉会議は、日本ではグリンバー訓練や班長会議に同義と受け取ることができるでしょう。しかし日本のボーイスカウトには上級班長が規定されており、上級班長に本来隊長がしなければならない動きをさせてしまっている現状や傾向があることが日本のボーイスカウトの問題といえるかもしれません。(戦後の日本のボーイスカウトは、アメリカボーイスカウトのシステムの多くを取り入れており、上級班長はその Senior Patrol Leader に同義といえます。しかしアメリカでは緻密な少年幹部育成プロセスを経た成果として Senior Patrol Leader が誕生するのであり、スカウトの誰かに上級班長を任じれば足りるというものではありません。しかもアメリカでは1級スカウトにならないと正規班(Regular patrols)の班員にはなれないのです。それに至らないスカウトは新人班(New-Scout patrol)に属し、成人指導者の厚い関与のもとで技能を学びます。)


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 班制(Patrol System)は、単なる小集団単位の活動を指すのではありません。指導者の意思を効果的に伝達しフィードバックする機能にその意義があります。このシステムをとおして、組織の中の一人ひとりがその立場をわきまえ、自分の任務遂行にかかる責任の重みを実感・体得するプロセスに、B-P が意図した教育効果を見出すことができます。班に決定を委ね、行動を任せるということがあっても、それは隊長の認知、見守りの中でなされるべきです。班の行為の結果の責任は当然、隊長が負うものなのです。信頼という紐帯のもとで、自分は見守られている、期待されているという意識の中で、自分の行為が評価されていく ―― この駆け引きの中の緊張感が、責任感という観念と態度を育てていくのです。
 B-P は、「隊長の手引」("AIDS TO SCOUTMASTERSHIP",1920)の中で、次のように述べています。

 The Patrol System has also a great character-training value if it is used aright. It leads each boy to see that he has some individual responsibility for the good of his Patrol. It leads each Patrol to see that it has definite responsibility for the good of the Troop. Through it the Scoutmaster is able to pass on not only his instruction but his ideas as to the moral outlook of his Scouts. Through it the Scouts themselves gradually learn that they have considerable say in what their Troop does. It is the Patrol System that makes the Troop, and all Scouting for that matter, a real co-operative effort.

 班制は、それが正しく運用されれば、人格(character)訓練という大きな意義も持っている。班制は、少年一人ひとりに、自分には班の維持存続のために自分にのしかかる責任があるということをわからせる。それはまた、各班が隊の維持存続のために一定の責任を持っていることをわからせる。このことをとおして、隊長は、指示事項だけではなく、スカウトのモラルについての自分の考えをも伝達することができる。このことをとおして、スカウトたちは、隊の諸事項についての重要な発言権を有していることを彼らなりに徐々に学んでいく。班制こそが、隊を成すものであり、すべてのスカウティングを表すものであり、本当の協同の取り組みといえるのである。(舟橋訳)
 (参考:「隊長の手引」(新訳版) ボーイスカウト日本連盟 2006.5.26発行 5頁)
(2015.9.26)




     SEIちゃんの B-P スピリット 研究
     @ ボーイスカウト運動についての諸考察 (2014.10.5)
     A スカウティング フォア ボーイズ に記された B-P スピリット (2015.7.22)
     B 「隊長の手引」に記された B-P スピリット (2015.8.14)
     C ローバーリング ツウ サクセス に記された B-P スピリット (2015.8.15)
     D 「パトロール システム」に記されたフィリップスのスピリット (2015.9.26)
     E 進歩制度に託された B-P スピリット (2015.10.14)
     F 信仰の奨励に託された B-P スピリット (2015.10.12)
     G 野外活動に託された B-P スピリット (2015.11.29)
     H スカウト運動に託した B-P スピリット (2016.7.14)
     I “ちかい”と“おきて”に託した B-P スピリット (2016.12.12)
     ◎ ベーデン-パウエルのラストメッセージ B-P's Last Message
     J ボーイスカウト研究 (1979.12.14)
     K ボーイスカウト実践記 (1980.4.28)
     L ボーイスカウト活動プログラムの紹介 (1998.6.20)
     M 《資料》B-Pの1926年の講演「ボーイスカウト・ガールガイド運動における宗教」
     N 《資料》1966年のチーフスカウトのアドバンスパーティーの勧告の序文
     O 《資料》ラズロ ナジ 著「REPORT ON WORLD SCOUTING」(1967) の序文
     P 《資料》「An Official History of Scouting」(The Scout Association, 2006) から



   参考までに
   スカウティングフォアボーイズ日本語第27版電子ブック (兵庫県長谷川武彦氏ウェブサイト)
   <http://23.pro.tok2.com/~choraku/scoutingforboys/scoutingforboys.html>
   SCOUTING FOR BOYS (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/yarns00-28.pdf>
   「ウルフカブス・ハンドブック」 ボーイスカウト日本連盟訳 (ボーイスカウト茨城県連盟ウェブサイト)
   <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/WCHB/WCHB-m.html>
   THE WOLF CUB'S HANDBOOK (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/wolfcubshandbook.pdf>
   「隊長の手引」 ボーイスカウト日本連盟訳 (ボーイスカウト茨城県連盟ウェブサイト)
   <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-1.html>
   <http://www.scout-ib.net/09SCIB-DB/ASM/AidToSM-2.html>
   AIDS TO SCOUTMASTERSHIP (隊長の手引) (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/a2sm.pdf>
   ROVERING TO SUCCESS (カナダ ScoutsCan.com ウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/rts.pdf>
   SCOUTING AND YOUTH MOVEMENTS(スカウティング青少年運動)(ScoutsCan.comウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/scoutyouth.pdf>
   The Patrol System and Letters to a Patrol Leader (ScoutsCan.comウェブサイト)
   <http://www.thedump.scoutscan.com/Patrol%20System.pdf>
   「班長のてびき」 ウィリアム ヒルコート著 BS日連訳 (ボーイスカウト岡山連盟ウェブサイト)
   <http://www.scout-ok.jp/archiv/doc/patrol-leader.pdf>
   アメリカボーイスカウトの班制度・班長訓練 ( BSA ウェブサイト)
   <http://www.scouting.org/scoutsource/BoyScouts/PatrolLeader.aspx>
   BOY SCOUTS HANDBOOK The First Edition,1911,BSA(The Project Gutenberg EBook)
   <http://www.gutenberg.org/files/29558/29558-h/29558-h.htm>
   Scoutmaster and Assistant Scoutmaster Leader Specific Training (BSAウェブサイト)
   <http://www.scouting.org/filestore/training/pdf/34879.pdf>
   SCOUTMASTER HANDBOOK, Boy Scouts of America
   <https://drive.google.com/file/d/0BxgyGhfwmpSpOG1YeXFveHlFWWs/view?pli=1>




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